人材の活用と組織の活性化 各界の声

少子高齢化、人材不足の影響による組織の人的課題は様々です。新卒・中途採用課題、従業員の早期離職、AIやDXに影響される職場環境の変化もあり、今後はひとりひとりの従業員を活かし、新しいアイディアや工夫を経営に繋げる事が重要になります。
この変革期における
人的組織課題に関して各界からの意見をキャリア顧問がインタビューしてお届けします。

【第1回】
ゲスト 佐藤大輔氏(北海学園大学経営学部教授)

待遇改善だけでは解決しない人材課題

人が辞めない組織のカギは「理解」

採用しても人が定着しない。若手が育たない。管理職の負担ばかりが増えていく。こうした人材課題に悩む企業は少なくありません。しかし、その原因を「最近の若者の傾向」や「地方だから」「中小企業だから」と片付けてはいないでしょうか。
北海学園大学経営学部教授であり、地域企業との協働プロジェクトにも取り組む佐藤大輔教授は、若手離職や管理職の疲弊は別々の問題ではないと指摘します。その背景には、組織の中で見落とされがちな「理解」の問題があるといいます。
今回は、人的資本経営時代の組織づくりをテーマに、なぜ人材課題が起こるのか、その背景にある時代の変化について伺いました。

■ 待遇改善だけでは防げない人材流出

待遇改善だけでは防げない人材流出「若手がすぐ辞めてしまう」「管理職が疲弊している」「人が採れない」
多くの企業が共通して抱える課題です。そのため企業では、採用活動の強化や福利厚生の充実、研修制度の整備など、さまざまな取り組みが行われています。
それでも思うような成果が出ないケースは少なくありません。

こうした状況について佐藤教授は、待遇面だけでは人材不足を説明できないと話します。 「私の住む北海道を例にすると、利益を上げている企業は数多くあります。生活コストまで含めて考えれば、道内で働く方が経済的なメリットが大きい場合もあります。それにもかかわらず、人材流出は続いています。つまり、待遇だけでは人材不足の理由を十分に説明できないのです」

では、何が不足しているのでしょうか。

佐藤教授は、企業が生み出している価値や仕事の魅力が十分に伝わっていない可能性を指摘します。

■ 人を動かす「合理的理解」と「感情的理解」

人を動かす合理的理解、感情的理解企業の価値や仕事の魅力を伝える上で鍵になるのが、「理解」です。

佐藤教授によると、人が行動するためには二種類の理解が必要だといいます。一つは、「なぜそれをやるべきなのか」という合理的な理解。もう一つは、「やってみたい」「関わりたい」と感じる感情的な理解です。
自分の仕事が社会の中でどのような役割を果たしているのか。会社はなぜ存在しているのか。自分は何のために働いているのか。
こうした問いに対する理解や納得がなければ、不満や困難に直面した際に、仕事を続ける理由を見失いやすくなります。

一方で、仕事の意味や価値を理解し、納得している人は、困難があっても組織に深くコミットすることができます。

退職理由として挙げられる「業務内容が退屈」「職場の雰囲気が合わない」といった言葉の背景にも、仕事の意味に対する理解不足が潜んでいる場合があると佐藤教授は説明します。

■ 仕事の意味を語れない管理職

この問題は若手社員だけの話ではありません。
管理職や中堅社員自身が、仕事の意味や価値について十分に教わらないまま働いてきた場合、それを次の世代に伝えることが難しくなります。

佐藤教授は、「自分が理解していないことは、他人にも理解させることができません」と語ります。
管理職自身が仕事の目的や意義を十分に理解できていなければ、部下とのコミュニケーションは指示や注意に偏りやすくなります。
すると部下は主体的に動けなくなり、管理職はさらに細かく管理しなければならなくなります。その結果、管理職自身も疲弊していきます。

若手離職と管理職の疲弊は別々の問題ではなく、同じ構造の中で起こっている可能性があるのです。

■ 「昔は黙って働いていた」は本当か?

ここまで読むと、「昔はそんなことを考えなくても働けた」という声も聞こえてきそうです。
実際に、多くの人が終身雇用や年功序列を前提とした時代を経験してきました。
しかし佐藤教授は、「昔の人が仕事を理解していなかったわけではありません」と話します。

高度経済成長期から成熟期にかけての日本では、市場そのものが拡大していました。

良い製品を安定してつくる。品質を維持する。決められた手順を正確に実行する。
こうした能力が企業の競争力につながっていたため、上司が方向性を示し、部下が忠実に実行するというマネジメントは、当時の環境に適した合理的な方法だったのです。

■ AI時代に求められる自律的人材

AI時代に求められる自律的人材しかし現在は状況が大きく変化しています。

人口減少による人手不足や市場の成熟、顧客ニーズの多様化。そして、生成AIをはじめとする技術革新が起こっている中では、かつてのように、マネジメント層が与える指示を社員が効率よく実行するだけでは、企業が成長し続けることが難しくなっています。

佐藤教授は、AIは学習したことを再現することが得意だと説明します。
一方で、人間に求められるのは、まだ答えのない課題に向き合う力です。
例えば、顧客の潜在的なニーズを考える、新しいサービスを企画する、組織の課題を発見する…といった創造的な活動には、自ら考え、判断し、行動する力が欠かせません。

「自分の仕事を理解し、納得し、自律的に動ける人材の存在が重要になっています」と佐藤教授は話します。

そして、このような時代背景の中で注目されているのが「人的資本経営」という考え方です。
従来の人材マネジメントと何が違うのか。人を『資本』として捉えるとはどういうことなのか。
次回は、人的資本経営の本質について詳しく伺います。

ゲストプロフィール

待遇改善だけでは解決しない人材課題 専門家の声佐藤大輔
(さとう・だいすけ)

北海学園大学経営学部教授。大阪府生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。2012年より現職。専門は経営学、マネジメント。研究室では企業や地域との課題解決型プロジェクト、学生のスタートアップ支援にも取り組む。著書『「創造性」を育てる教育とマネジメント』(同文館出版/編著)、『人を動かす経営学』(ナツメ社)など。
ポッドキャスト 研究室でおしゃべり!ラジオde経営学

取材・文 キャリア顧問 馬場美穂子

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